商標戦略と炎上リスク

2022.05.16

人気動画コンテンツの名称を特定の配信者が商標登録したということで動画配信界隈で話題になっています。

人気動画ジャンル「ゆっくり茶番劇」を第三者が商標登録し年10万円のライセンス契約を求める ZUNさん「法律に詳しい方に確認します」 – ねとらぼ, 2022年5月15日

過去にも大手企業が「アマビエ」や「投げ銭」などを商標登録出願して話題になったこともありました。商標権を取得することや、そのための商標登録出願をすることは知財戦略上も重要なポイントではあるものの、炎上によってブランド価値を毀損しないよう、業界や世間の反応も考慮した戦略が現代では求められているのではないでしょうか。

商標登録をする目的

商標法1条に「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り」との目的が記載されています。そして同法3条1項6号に「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」は登録を受けられないとあります。これらを合わせて読めば、需要者(消費者)が誰の商品・サービス(役務)であるか認識するための商標を保護することで、商標を使う人の業務上の信用(=ブランド力)の維持を図る、ということになります。
つまり、商標法に基づく商標登録は「ブランドの保護」が目的です。

登録できない商標

商標登録を受けるには出願して特許庁の審査を受ける必要があります。審査にはいくつかの項目がありますが、商標法3条の「商標登録の要件」から外れていたり、逆に商標法4条の「商標登録を受けることができない商標」に該当していたりしないかといったことがチェックされます。
「商標登録の要件」とは、主に「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる」という条件を示していて、一般的によく使われている名称など、誰が生産者や販売者であるか区別できないようなものは、登録ができないと定めています。そのような商標はブランドの保護にはなりませんし、独占がかえって経済を制限してしまうかもしれないからです。
「商標登録を受けることができない商標」とは、公的なマーク(国旗や公的組織のマークなど)や他人の登録商標など、明らかに登録が適さないものを列挙した規定です。その中には「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」や「不正の目的をもって使用するもの」など、他人の業務に悪影響があるものも登録できないとする規定が盛り込まれています。

公報

商標登録出願をした場合や商標登録がされた場合は特許庁の公報に掲載され、また、特許庁のウェブサービスであるJ-PlatPatでも検索可能になります。商標登録を図る以上は人の目に触れるという前提の下、戦略的に出願を行う必要があります。

他人が出願・登録した場合

もし他人が自身のビジネスに影響のある商標について出願・登録してしまった場合には、いくつかの対抗手段が用意されています。
まず登録前の出願の段階では「情報提供」という形で特許庁に商標登録に適さない出願であることを意見できます。特許庁もすべての言葉や図案について世の中でどの程度知られたものか把握しているわけではないので、情報提供を受けると審査で考慮される場合があります。
登録後には「登録異議申立」や「無効審判」「取消審判」といった、商標登録の有効性を争う制度が用意されています。

ライセンス

商標登録された商標は、商標権者が独占する以外にも「許諾」という形で他人が使用することも認められます。一般的には対価を支払って許諾を受けることが多いですが、使用条件(表示方法など)を守れば自由に使っていいというケースも中にはあり、この辺りは商標権者の裁量による部分が大きいです。
一方で、許諾を受けた人が誤った商標の使い方をした場合にはその商標登録が取り消されかねないので、許諾をする際には商標権者側にも一定のリスクがあると考えられます。

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